車の最新技術
更新日:2023.06.05 / 掲載日:2023.06.05

魔法のような乗り心地を実現するシトロエンの秘密【石井昌道】

文●石井昌道 写真●シトロエン

 シトロエンは古くから独創的な先進技術にこだわりがあるが、なかでも有名なのがハイドロ・ニューマチック・サスペンションだ。

DS(1955年)のメカニカルイラストレーション

 1955年登場のDSに初採用されたハイドロ・ニューマチック・サスペンションは、一般的な金属スプリングとショックアブソーバーのかわりに、オイルによる油圧と窒素ガスによる空気圧を利用したもので、硬さや車高が自在に最適化される優れたシステム。油圧はサスペンションだけではなく、ブレーキやパワーステアリング、トランスミッションなどにも用いられる画期的かつ複雑なシステムだった。最大の特徴はソフトタッチで、ストローク感がたっぷりとある良好な乗り心地で“マジックカーペットライド(魔法の絨毯のような)と形容されていた。
 残念ながら2015年に販売終了したC5が最後のモデルとなったが、これを蘇らせたのがプログレッシブ・ハイドロ-リック・クッション(PHC)だ。2017年にC4カクタスで初採用され(日本未導入)、日本では2019年導入となったC5 AIRCROSS SUVで初お目見え。
 自らハイドロ・ニューマチック・サスペンションの現代的解釈と形容している通り、乗り心地の良さが自慢だったが、昨年導入されたC5X プラグインハイブリッドにはさらにアドバンスト・コンフォート・アクティブサスペンションを追加し、最上級の乗り心地を実現している。

C5X

 C5Xは現在のシトロエンのフラッグシップモデルとされ、セダンとステーションワゴン、それにSUVのエッセンスが融合したクロスオーバーで、かつてのDSやXMなどと同じく独創的で流麗なスタイリングが目を惹く。インテリアもカラーや素材、ディテールにいたるまで凝っていてデザインだけでも欲しくなる人が多いモデルでもある。
 PHCはハイドロ・ニューマチック・サスペンションに比べるとシンプルなシステムで、一般的なサスペンションながらショックアブソーバー内にセカンダリーダンパーを採用。ダンパー・イン・ダンパーなどとも呼ばれるもので、同様のシステムはルノーやアルピーヌなどでも用いられっている。

 一般的なラバーやシリコンなどのバンプストップはストロークを使い切って底付したときに、反発力が出るため挙動が不安定になることがあるが、セカンダリーダンパーがあれば底付時に反発せず、じわりと受け止めるので安定性を高められる。

 もともとはルノー/アルピーヌもシトロエンもラリーで開発されたもので、スポーツモデルに採用すると、凸凹と荒れた路面でも接地性が高くて操縦安定性が有利になる。これをシトロエンは、乗り心地の向上に使っているのだ。フロントは縮み側、伸び側の両方、リアは縮み側のみにセカンダリーダンパーが採用されており、底付するだいぶ手前から作用し始めることでストロークが浅いところではソフトで、深くなっていくにつれてハードになっていく。柔らかくて快適なのに、粘り腰があって安定性も失わないわけだ。
 ハイドロ・ニューマチック・サスペンションのようにセンサーや油圧回路などが必要ではなく、一般的なサスペンションの延長線上にあるもので汎用性が高く、信頼性も高い(ハイドロ・ニューマチック・サスペンションは故障が多いことでも有名だった)。コストも比較的に抑えられる賢いシステムだろう。
 アドバンスト・コンフォート・アクティブサスペンションは電子制御でダンパーの減衰力を可変するシステムでPHCの効果をさらに高める。ホイールスピードセンサーや加速度センサー、ヨーレートセンサーやステアリングやアクセル、ブレーキなどの状況などを把握して、最適な減衰力に断続的に切り替えていく。
 その他、205/55R19という径は大きいが幅は細いタイヤを採用することも、乗り心地重視の表れだろう。

C5X


 実際に走らせてみると、フンワリと優しい乗り心地に驚かされることになる。ハイドロ・ニューマチック・サスペンションはエアサスが苦手としているのと同じく、凹凸が連続して続くと動きが渋くなって硬く感じることもあったが、PHCならばそんなことはない。テストコースで緊急回避を想定したダブルレーンチェンジテストを行ったときには、さすがに切り返しに時間がかかって俊敏とは言いがたかったが、一定方向のコーナリングでは操縦安定もなかなかのもので、高度なシャシー性能だった。
 シトロエン・ファンが感涙するだけではなく、スポーティよりもコンフォートを重視する人にはオススメしたいモデルなのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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